Photo: 丸尾隆一(YCAM), Courtesy of YCAM

カールステン・ニコライ+マルコ・ペリハン「polar m[mirrored]」

2010-2011

カールステン・ニコライ+マルコ・ペリハン「polar m[ポーラーエム]」
2010年11月13日-2011年2月6日
山口情報芸術センター[YCAM]

*阿部一直(YCAM) との共同キュレーション

2000年のカールステン・ニコライとマルコ・ペリハンコラボレーションによる初のインタラクティブ・インスタレーション「polar」(キヤノン・アートラボ第10回企画展)では、人間の想念を物質化させる「ソラリスの海」(S・レムの1961年の原作「惑星ソラリス」とA・タルコフスキーによる1972年の映画化)を発想の起点とし、知的生命体のように複雑化していく情報生態系を提示した。それから10年、同じアーティストとキュレーターによりYCAM委嘱作品として制作された「polar m[ポーラーエム]」では「放射線」に注目し、リアルタイムの可視化・可聴化により私たちと環境とのミクロかつマクロな関係性を投げかけた。「polar」において2人の体験者だけが内部に入れたキューブ空間(7x7x4m)(外からは誰も見ることができない)は、本作ではダブルになり左右対称的に設置、一つは内部に入れ(内部観測的)、もう一つは外部からのみ見ることができた。展覧会終了翌月に、東日本大震災、津波に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故が起き、膨大な人工放射線が環境に放出された。


[展覧会フライヤーより]

‘polar’とは何か / アートからの環境観測:
カールステン・ニコライとマルコ・ペリハンによって特別なプロジェクトと位置づけられる’polar’。このタイトルは本来、対局性、極地を示しますが、‘polar’では、現実空間と情報空間とを関連づける地球の電磁場や放射線、磁極の意味を含めています。また、地球環境と情報環境をアートの視点から10年毎の長周期で観測し、未知なる極地としての 環境を探査する意味が込められています。本プロジェクトでは、先端的なメディアテクノロジーを駆使し、私たちが生きている環境の中に潜む巨視的かつ微視的な不可視の関係性を、映像や音響として精緻に表現し、絶え間なく変化を重ねる環境の現存性に対しての新たな意識や眼差しを提示します。

‘polar’ 2000 から’polar’ 2010へ:
2000年のインスタレーション’polar(ポーラー)’から10年を経た今回の’polar’では、情報技術の圧倒的な進展・浸透によって変動する環境世界において、なおも明らかにならない人間存在のメカニズムとは何なのか、という問いがたてられています。私たちは、想像を超える技術革新や探査によって何に近づこうとしているのか。本展では、身体性に鋭く反映する環境探査の方法として放射線(radiation)の存在に注目します。環境創造のプロセスを地球における放射線、電磁的な生態系から描き出す、かつてないインスタレーションが構成されます。

放射線としての環境世界:
作品空間には、2つのキューブ状の構造体が左右対称に置かれ、さらに観測装置となるオブジェ|ガイガーカウンター[放射線計測装置]、砕石用ロボットアーム(放射線発生装置)、高周波電波受信機(電磁波計測装置)、クラウドチェンバー(放射線可視化装置)が設置されています。ここでは、体験者を含むあらゆる存在と放射線との関係がセンシングされ、それによって微細なグラフィックの映像や、多様な周波数の音が生成され、空間全体を変容させていきます。来場者は、それぞれにとっての空間体験とともに、なぜキューブ状の構造体は相互対称として2つあるのか、という本作における問いを自らに投げかけることになります。


コンセプト/構造/システム:カールステン・ニコライ、マルコ・ペリハン
サウンドプログラミング/システムディスプレイ:nibo、カールステン・ニコライ
ロボット/センサーシステム:ダニー・バゾ(カリフォルニア大学サンタバーバラ校メディア・アーツ・アンド・テクノロジー)
ヴィジュアルプログラミング:ウェスリー・スミス(カリフォルニア大学サンタバーバラ校メディア・アーツ・アンド・テクノロジー)
アーキテクチャー/ハードウェア:ロブ・ファイゲル・オフィス、Vorschub、ZAVOD PROJEKT ATOL、C-Astral Ltd.
プロダクションサポート:ダニエル・クレム、nibo

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